2022-01-01から1年間の記事一覧

ラッパー風情

あのね、ラップバトルを初めて目撃したの、腹中の液体を揺らす爆音、三秒に一度眼球を突き刺すミラーボール、微差ほどの個性をビートに乗せて口語で殴り合う超男性。八小節のラップの応酬に既視感、何かに似ていると思案すると、それは私が人を傷つけようと…

冬(仮)

明日休みだから飲みに行きましょうよと業務中から喫煙所、駅構内でも駄々こねていると、長男っぽい末っ子の先輩と、末っ子っぽい長女の後輩とが付き合ってくれた。美寿々だとか夜明け前だとか可愛らしい名前のお酒をコクリコクリと飲んでは意味もなく呵々と…

間抜けな傷害

お前の書いた文章見てると反吐が出る、という旨を明確な悪意と明確な愛のわかる文体で私に言ってくれた男に会いに行きたくなって殆ど5年ぶりに再開した。家の中は酒瓶だらけで窓は閉め切っていて部屋の惨状を一ミリも隠そうとせず待ち構えていた。男は来年…

十年ぶりの喘息

ゴールデン街でテキーラやらウイスキーやらを飲みまくって「幸せになりたい」と私を除く総ての人、時計、酒、アイフォンとが絶叫していた。私は幸せになりたいと思ってなかったから、若しくはここにいる誰よりも幸せになりたいから絶対にそんなこと叫ばなか…

夜逃げ

「今日バイトだったがこれは首だな」とスキットルに入ったウィスキーをコクリコクリと飲みながら、Googleマップを見ては人間が本来移動し得ない距離をものすごいスピードで移動する青い点をみてニタニタと笑っている。私は青い点が動くことの何が楽しい、と…

全治二秒

私がまだ芸人になろうと仕事を辞めて二日目の夜のこと、ゴールデン街で泥酔してラーメンズとバナナマンの魅力やら嫉妬やらをごちゃ混ぜにしたものを友人に一方的に投げ続ける悪行をしていると、バーテンさんがラーメンズが好きな人いるよと、小柄な女性を紹…

金木犀という名の惑星

或る初秋の候、ドアを開けると朝霧が立ち込めていた。誰もが寝静まっている時間に霧の中にポツネンと佇んでいると、世界で私一人だけ起きているような気がした。霧と月を撮ってみたが、アイフォンに搭載されているカメラではどちらもうまく撮れなかった。ア…

蚤の市

蚤の市は初夏の芝生の上で日差しに首元を焼かれながら古本を吟味していたところ、帽子と日傘で完全武装した女性が近づいてきて私の手元から本を奪い取りレジへ向かった。横暴な人間がいたものだと逃げ出そうとすると彼女は私の前に立ち塞がり先ほど購入した…